「猪熊弦一郎現代美術館」
少し時間が経ってしまいましたが、夏の四国旅行の裏テーマとして、会社員時代の原点を思い返そうとして、松山市にある伊丹十三記念館に続いて、丸亀市にある猪熊弦一郎現代美術館に行ってきました。
この美術館は、丸亀市の市制施行90周年の記念事業として、丸亀市ゆかりの画家・猪熊弦一郎氏の全面的な協力のもと、建築家の谷口吉生氏によって1991年に開館したそうです。
驚くべきは、駅を降りて徒歩1分という場所に、とてつもなく美しく広大に聳え立つその存在感です。圧巻という言葉でしか表現できず、猪熊氏と丸亀市が時間をかけて築いてきた美術館の素晴らしさが伝わりました。
また、猪熊氏が常に新しいものを積極的に紹介する「現代美術館」にしたいという強い想いが、自然光を取り込んだ明るく広々とした空間から感じられました。
繋がりの経緯としては、15年以上前に初めて入社した会社が百貨店の三越で、その象徴的な包装紙「華ひらく」が猪熊源一郎氏がデザインしたものでした。
モチーフになっているデザインは、海岸に転がっていた石のフォルムだったそうです。
波にも負けずに頑固で強いという発想を原点にしながらも、自然の美しさ、自然の造形に魅かれたからです。
「華ひらく」というタイトルは、三越がいろいろな商品を扱う「百花ひらく」という想いからきていると言われています。
その当時、三越の宣伝部に勤務していた「アンパンマン」の作者であるやなせたかしさんが依頼し、「mitsukoshi」という筆記体文字を書き加えて完成したというストーリーが詰まった包装紙でした。
こんなにも語っておりますが恥ずかしながら、猪熊弦一郎氏がどんな人だったのか、当時の会社員時代にはあまり知識がなく、むしろ包装紙に戸惑いを覚えたことすらありました(笑)。
それは、当時三越の新入社員の登竜門ともいえるのが、華ひらく包装紙を使ってあらゆる物を包むという業務でした。
包装が苦手だったにも関わらず、三越の包装方法は特殊で、テープを使えるのは最後の一箇所だけで、その角が取れないとズレてしまい、最初からやり直さなければなりませんでした。
しかし、それにはお客様への配慮とメッセージが込められており、そのテープを剥がすと、まるでふわりと華が開くように包装が広がることからここでも「華ひらく」をデザインしているのです。
自宅で新聞紙を包装紙のように使って何度も練習していたことが、今では非常に懐かしい思い出となっています。
ここまでの徹底ぶりには敬意を表し、私もスピリッツとして今後も大切にしていきたいと思っています。
話は長くなりましたが、実は知らないうちに素晴らしいデザインに触れていたことに気づいたのは、お店を始めてからデザイナーさんなどと直接仕事をするようになり、色々と教えていただき、興味が湧いて調べてみたからです。
猪熊氏がどれだけ美しい生き方をされていたかに気づかされました。
30代には憧れのアンリ・マチスから指導を受け、その影響を40代でも受け続け、逆に自分の絵を見つけるのに苦しみ、50代で自分自身を見つめ直し、新しい自分を発見するために海外に向かい、ニューヨークで抽象表現主義に惹かれ、作風を大きく変え、猪熊弦一郎らしさを作り上げたそうです。
晩年まで「新しい自分」を追い続けた圧倒的な好奇心と、それを信じ続けた強さに感銘しました。
猪熊氏の言葉通り、「美しいものをたくさん見なさい。美しいものを知れば、あなたの生活はより豊かに感じられるでしょう。」という素晴らしいメッセージは、美術館で展示されていた猪熊氏の好みにも当てはまるように感じました。
高級であるようには見えないものや、一見ガラクタに見えるものさえ、愛情を込めて見れば美しい芸術品に変わるような気がしました。
これは物事全てに共通する大切な考え方であり、人々や物事、行動に対して愛情を持ち、真摯に向き合うことが大切だと再確認しました。
今回の常設展では、「画家としてのはじまり」というテーマで、90歳まで描き続けた猪熊弦一郎氏が若き日々に全力で自己表現に挑み、その作品が紹介されていました。
題名のついていない作品も多く、絵を描く行為が何かしらの意味を模索していたようにも感じられました。
ぜひ、「猪熊弦一郎のおもちゃ箱」という本を読んでみてください。
展示物を鑑賞する際にも、その流れがスムーズで魅力的に感じられるかなと思います。
興味がある方は、旅行と組み合わせてぜひ、訪れてみてください!!