究極の着心地を生むニットブランド〈MOTHER HAND artisan〉— 後編:MOTHER HAND artisanの徹底したもの作りの裏側

心から「良いものに出会えた」と思える。
〈MOTHER HAND artisan〉のニットは、まさにそんな一着です。
最大の魅力は、他に類を見ない独自の製法にあります。
現代ではすでに製造されていない、自由度が高く扱いの難しい“家庭用手横編み機”を用い、永井はま子さんが一目一目丁寧に編み上げ、永井大作さんが手縫いで仕上げていきます。
その手仕事には、時間と手間、そしてお二人の息遣いが宿っています。
このニットが特別なのは、いわゆる“手仕事の温もり”だけではありません。
糸の選定から編み地の構成に至るまで、一般的なニットの理論にとらわれない独自のアプローチで設計されており、着る人の体に自然に寄り添いながら、見る人の目を惹く圧倒的な存在感を放ちます。
細部にまでこだわり抜かれた一着は、まるで作品そのもの。
触れるたび、袖を通すたびに、職人の手仕事の密度と熱量が伝わり、単なるニットを超えた“体験”をもたらしてくれます。
後編では、アトリエで実際の製作過程を拝見し、永井ご夫妻の徹底的にこだわり抜いたニット作り、そしてSOMBRELOがセレクトしたモデルについてご紹介しております。
1着に込められた時間
〈MOTHER HAND artisan〉のセーターは、1着を仕上げるのにおよそ1日。
それほどまでに、気の遠くなるような手間と時間をかけて作られています。
“家庭用手横編み機”を使い、ひと目ひと目丁寧に編み上げられています。
右から左へと動かしながら編み進めていきます。
私も実際に体験しましたが、その重さと操作の繊細さに驚きました。
1着を完成させるためには、片身で300〜400回、もう片身でその倍近くの動作を繰り返します。
さらに両腕の動作も加わるため、その回数は途方もないものになります。
糸が針の上を正しく通らなければ“編み損じ”が生じ、時間も大幅にかかります。
糸の状態や針の動き、手の動かし方、そしてその日の湿度や染料の違いによっても編みやすさが変化します。
乾燥した日は糸が固くなり、特に難易度が上がるそうです。
精密さを極める“錘”と立体構造
“錘(おもり)”の使い方も極めて重要です。
その重さや掛け方は編み方によって変わり、わずかなバランスの違いがVネックなどの形状に影響を及ぼします。
錘の調整ひとつで仕上がりが左右され、作業時間にも大きく関わるのです。
腕のチューブ構造は、家庭用手横編み機ならではの特徴で、〈MOTHER HAND artisan〉でしか実現できない技法です。
ホールガーメントのように胴体と袖を一体化する方法はありますが、“袖のみをチューブ状に編む”技法はほとんど見られません。
立体的なパターン作りはスーツの仕立てに近く、「いせ込み」の技術で袖付けを行います。
シャツで言うところの“マニカ・カミーチャ”のような構造です。
糸の種類ごとにパターンを研究し、試作を重ねて最適解を導き出す——その地道な工程を何度も繰り返しています。
手縫いで一目一目を縫い合わせる
胴体と袖は、一目一目、手縫いで縫い合わせていきます。
いせ込みを行うため、袖はやや大きく作られ、縫う目を数えながら丁寧に被せていきます。
片腕の縫製には約15分。修理しやすいよう、半分ずつ縫ってから反対側から再度縫い合わせます。
すべてのモデルで袖は手縫い仕上げ。
特に「DINANT」は胴体までも手縫いで仕上げられています。
<SOMBRELO >SELECT MODEL
GENT(ゲント)

ベルギー第3の都市の名を冠したクルーネックセーター。
肩幅を狭く設計し、前振りを加えることで背中に余裕が生まれ、動きやすさを高めています。
スーパーファインウール Super100’s とアンゴラを混紡した上質な素材を使用。
胴体は2本取り、首周りや負荷のかかる部分は3本取りで強度を確保しています。
カラーは鮮やかなマリンブルー、定番のブラック、そして上品で落ち着いたライトベージュをラインナップ。






【MATERIAL】 WOOL 75% / ANGOLA 25%
【COLOR】 OLTREMARE(マリンブルー) / VOLGA(ライトベージュ) / NERO(ブラック)
【SIZE】
2:肩幅40cm/身幅50cm/袖丈58cm/着丈64cm
5:肩幅44cm/身幅59cm/袖丈60cm/着丈70cm
【PRICE】 ¥45,980(税込)
DINANT(ディナン)

ヴィンテージスウェットやアランセーターから着想を得たモデル。
ゆったりとしたシルエットとドロップショルダーが特徴です。
シルクは“野蚕”の生糸を、モヘアは南アフリカ産スーパーファインキッドモヘアを採用。
シルク3本・モヘア3本の計6本を交撚した“ヘビー級”の特注糸を使用しています。
糸に重さがあるため、スーツ作りの理論を応用し、動きやすくなるよう傾斜をつけて設計。
“点”ではなく“面”で支える構造が、見た目の美しさと着心地の良さを両立させています。
カラーは、ブラウンをベースにした深みのあるミックストーン。




【MATERIAL】 SILK 62% / MOHAIR 38%
【COLOR】 WONDER(MIX BROWN)
【SIZE】
2:肩幅53cm/身幅59cm/袖丈53cm/着丈68cm
4:肩幅58cm/身幅64cm/袖丈54.5cm/着丈71cm
【PRICE】 ¥80,080(税込)
まとうたびに深まる、唯一無二の体験
これほどのニットに出会えることは、アパレルに長く携わっていても滅多にありません。
〈MOTHER HAND artisan〉のセーターは、ただ“着るための服”ではなく、時間と手間、そして人の想いが積み重なった“唯一無二の存在”です。
各モデルは、女性だけでなく、男性のサイズもご用意しております。
ぜひこの機会に、実際に袖を通して、その“時間の密度”を感じてみてください。
